ポーランド ウッチ劇場紀行

2024.10.24 16:49:33 Comment(s) By 米田ひろみ

4年ぶりのウッチ訪問

2024年10月ポーランドはウッチを4年ぶりに訪れました。

教え子でもある息子が「ジゼル」のペザントをファーストキャストで踊ることになったからです。

この数年、海外訪問は及び腰になっていた私。コロナ禍と円安の影響に加え、海外旅行は気力も体力も必要で、年々衰えを感じている中、異国での一人旅をこなせるか不安になっていました。けれど、「今が一番若い」と自分で自分の背中を押しました。


久々のウッチは少し利便性が上がっていました。かつては街の中心部から離れたところに位置した空港バスのターミナルは市街地最寄りのウッチ・ファブリチュナ駅に移転。お目当ての劇場はウッチ・ファブリチナ駅からわずか徒歩3分。

年に1度訪れるか訪れないかの土地で言語が異なる異邦人にとって、こうした利便性は本当にありがたいのです。

劇場について

まずは、劇場のことについて軽く触れておきます。

ウッチグランドシアターはウッチの公立劇場。オペラ、オーケストラ、バレエ、ミュージカルなどを日々上演しています。

上演演目をバレエ&ダンスに限って言えば、ほとんどがネオクラシックかコンテンポラリー作品。

年に2〜3作品はクラシック寄りで「ドン・キホーテ(抜粋版)」「くるみ割り人形」「シンデレラ」などを上演しています。寄りという言い方をするのは、いわゆる純クラシックの伝統的な演出ではないからです。

毎年1〜2作品が新作のプレミア公演で、その後、数回リピートされます。

年に一度以上必ず上演される代表的な作品は「約束の地」。映画にもなっているストーリーで舞台が地元ウッチのオリジナル作品。地元に愛される伝統的な作品があるのは誇らしいことだと思います。


ダンサー団員は約50名。ダンサー達の国籍はさまざま。地元ポーランドをはじめ、イタリア、スペイン、フランス、ハンガリー、アメリカ、ウクライナ・・・そして、日本。日本人在籍者は4名。多分、他国より多い方だと思います。いっときは6名在籍していたこともありましたね。

2024年現在は男性2名、女性2名の日本人ダンサーが活躍しています。息子はこのうちの一人です。


日本でバレエ教師を生業としてきた私からすると、彼らは夢を叶えた成功者。

子ども時代から訓練を積み、10代中盤以降は海外バレエ学校留学を経て、オーディションをクリアして、ようやくプロフェッショナルとして舞台に立つ。ここまでだけでも数多とあるハードル。憧れの眼差しで見ている人がどんなに多いことでしょうか。

もちろん私も憧れの眼差しを向けるそのうちの一人だけれど、そんなダンサーの親でもあり、指導者でもあることで、こうした場へ脚を運び目の当たりにすることができるのは幸運です。

ジゼル上演の背景

先ほど、演目について軽く触れましたが、この劇場が古典中の古典である「ジゼル」を演目にするのはとても珍しく、2003年以来の21年ぶりです。

実は、それには国際情勢が関わっています。ポーランドはウクライナVSロシアの戦争でウクライナを支持しているため、ロシア音楽の象徴とも言えるチャイコフスキー作品の上演をとり止めています。その代わりの作品を検討した結果、「ジゼル」になったそうなのです。

お国事情が上演作品に影響を与えることは、現代の日本で遭遇することはまず無いため、軽くカルチャーショックを覚えると同時に背筋がゾッとします。まさに戦時中を突きつけられた感覚。

こうした背景がなければ、ウッチでジゼルが上演されることはなかったように思います。今回踊れたダンサー達はまさに幸運だと感じます。ちょっぴり皮肉かもしれませんが。

日本人ダンサーの活躍

さて、そんな背景で上演された「ジゼル」。

プレミアでは主役をポーランドナショナルバレエから、別日程でリヴィウ オペラ(ウクライナ)から客演を迎えています。

私が本公演を観ることができたのは、プルミエとセカンドプルミエの2公演。他には舞台稽古を観ることでほぼ全てのキャストを網羅できました。

それぞれのキャスト全てについてのことは文章がとてつもなく長くなるので、ここでは割愛します。今回は劇場で活躍する日本人ダンサーに焦点を当てて簡単にご紹介。


プルミエ

 アルブレヒト=北井僚太 ※ポーランドナショナルバレエより客演

 ペザント パ・ド・ドゥ=奥野里穂・橘宏輝

 ドゥ・ウィリー=奥野里穂

セカンドプルミエ

 ペザント パ・ド・ドゥ=板谷悠生

 ドゥ・ウィリー=奥野里穂

他日程

 ペザント パ・ド・ドゥ=小野寺桜子

 ウィルフリード=橘宏輝


見事なまでに主要キャストに在籍日本人が全員入っていて、これは大したものだなぁと日本人として嬉しくなります。

今回奇しくも主役で客演されたポーランドナショナルの北井僚太さんの踊りを観れたことも幸運でした。所作の一つ一つに風格と気品が備わり、まさにアルブレヒト。第二幕終盤のアントルシャ・シスは圧巻。なんと若干23歳。これからさらに注目されるダンサーになるでしょう。


と、こうしたひょんなことで彼を知ったわけですが、やはり広報の長けているカンパニーでダンサー個人をクローズアップするところはSNSを通して目に入りやすいですが、そうではないところでは、その素晴らしさに触れる機会が少ないですね。ちょっともったいないです。


ちなみに、プルミエのタイトルロールは韓国人のJaeeun Jungさん(ポーランドナショナルより客演)。主要キャストをアジア勢が占めた公演となり、なんとも不思議な感覚を味わうことになりました。


ヨーロッパ発祥のバレエをヨーロッパの劇場で日本人が主要キャストを踊る状況は日本人ダンサーのレベルの高さを改めて感じます。

プルミエのペザントは奥野里穂さんと橘宏輝の日本人ペアが踊りました。クリアな音どりと息のあったパートナーシップ。長身を生かしたダイナミックな動き。二人の踊りはジゼルの悲しい恋と対比になる幸せな恋人達を的確に表現しており、観客の拍手をさらっていました。

奥野里穂さんは第二幕ではドゥ・ウィリーも踊りました。「このステップはこの音で踊りたい」「体を大きく使い切りたい」という明確な意思を感じる踊り方に好感を覚えました。

セカンドプルミエのペザント板谷悠生さんは安定したテクニックで安心して観ていられます。別日程(舞台稽古を拝見)の小野寺桜子さんはペザントらしく素朴で快活で愛らしい雰囲気のある踊りでした。


個人的には息子の応援団。メインキャストをファーストで踊る機会に恵まれたことは本当に誇らしく、ますます活躍してもらいたいですし、その活動を本人が充実感を感じながら取り組んでいてくれるなら、親として本望です。

終演後のお楽しみ

プルミエ終演後は出演者や招待者にバンケットが振舞われます。プルミエの主要キャストには招待券が配布されるのです。ちゃっかり招待者としてお邪魔しました。人生何があるかわからないですね。

主要キャストが紹介され、会場のスポットで讃える言葉が贈られます。

ポーランド語はわからないけれど、雰囲気だけでも楽しみます。途中でスマホの翻訳機能でスピーチの同時通訳ができることに気づきました。海外旅行の怖いもの一つ減りました(笑)


主要キャストの皆さんとのショットはお宝です。少しだけの会話でしたが、皆さんフレンドリーかつフランク。こうした人間性の部分でも魅力的であることが大事なことだと改めて感じます。これをご縁にエールを送り続けたいと思いました。

幸せな時間をいただけたことに感謝でいっぱいです。

キャスト表
ジゼル第二幕 画像は劇場Facebookより
ペザント 画像は劇場Facebookより
ドゥ・ウィリー 画像は劇場Facebookより
プルミエ終演後 メインキャストの皆さん
プルミエの招待状

米田ひろみ